10月 31


「優しい人ほど損をする」

認めたくありませんが、これは真実です。

優しい人というのは、自分よりも他人を優先します。

優しい人は、あまり自己主張をしません。
それによって相手が傷つくことが、気の毒に思えて仕方がないからです。

「モヤモヤするけど、自分が我慢すれば、この人は傷つかないですむ」

いつも相手の意見に合わせて、自分の主張をグッと押し込めます。

優しい人は、激しい怒りの感情を覚えていても、それを表現することに戸惑いを感じます。
それによって相手が恐怖を感じることが、とても耐えられないのです。

「周りに怒りを表現することは、精神的な暴力のようなものだ。人をそんな目に遭わせてはいけない」

いつも怒りをグッと胸にしまい込んで、にこやかな笑顔で相手に接します。

優しい人は、苦しいときでも周りに助けを求めません。
それによって周りが迷惑することに耐えられないのです。

「苦しむのは自分一人で充分だ。周りを巻き込んではいけない」

いつも苦しみを一人で抱え、頑張って堪え忍びます。

こうして、優しい人は常に傷ついています。
そして、彼のことをフォローしてくれる人はいません。
周りの人たちは、彼ほど優しくはないからです。
彼がそれほどまでに傷つき、苦しみ、不満に満ちているなどとは、つゆほども思っていないのです。

「あの人は、なんだか人当たりが良いねえ」
「彼と一緒にいると、癒されるよ」
「まるで仏様のような人だ」

こんな風に、彼の評価は決して低いわけではありません。

でも、それ止まり。

単に「そういう人」というレッテルを貼ってくれているだけのことです。
多大な評価もご褒美も、祝福も感謝もありません。
彼がどれほど苦労して周りに気を配っているか、誰一人知らないからです。
周りが彼と同じくらい優しければ、事情は変わっていたでしょう。
でも、それを周囲の人たちに求めるのは酷というものです。


彼の人生も、もうそろそろ半ばを迎えました。
彼の日常は、相変わらずパッとしません。
昔に比べて裕福になったかといえば、そうでもありません。
どちらかといえば貧乏な方です。

未だに恋人もいません。
「いい人ね」と言われることはあっても「素敵な人ね」と言われることはありません。
華やかな恋愛とは無縁の日常が、淡々と流れていきます。

最近の彼は、どこか寂しげです。
なんだか、人生というものに疑問を覚えるようになってきました。

「おかしいな。誰に対しても優しく接してきたはずなのに、なぜ俺は幸せになっていないんだろう。
自分は善良に生きてきたつもりだ。別に信仰心があったわけじゃなく、元からこんな性質だった。でも、これは自分の長所だと信じてきた。
常に自分よりも他人を優先し、相手のことばかり考えて生きてきたつもりだ。
それなのに、どうして俺の人生はパッとしないんだろう。これが幸せと言えるのだろうか。どちらかといえば、不満の方が多いぞ。
そうだ。ずっとそうだった。俺は善良に生きてきたつもりなのに、ちっとも幸せを感じたことはなかった。幸せを感じてきたのは、いつも周りの方だった。それも、俺がいつも一歩、身を引いてあげていたからなのに!
冗談じゃないぞ!よく考えれば、冷徹で、図々しいヤツの方が成功し、豊かになり、美しい恋人を連れて歩き、俺なんかより何百倍も人生を謳歌しているじゃないか!それに比べてこの俺は…。
これまでの俺の人生は、一体何だったというのだ」



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ここから、この物語の結末は三つに分かれます。
いわゆる「マルチ・エンディング」です。


【結末その1】

彼は、神を呪い、怒りに打ち震えます。
そして、自分を踏みつけにした社会に復讐を誓うのでした。
これまで自分と関わった人間をひとりひとり殺していこうか。
面倒だ。いっそ、人類全てを破滅に追い込んでやる。
この途方もない計画は、しかし彼に生き甲斐を与えました。
彼には、今まで感じたことのないようなエネルギーが、尽きることなく湧いてきているのです。
そのうち彼は、この計画を本当に実現してしまうかもしれません。

優しい人を怒らせると、とても恐ろしいのです。


【結末その2】

彼は、この絶望感に折り合いを付けることにしました。

「…仕方がない。自分で選んできた道じゃないか。
それに、周りに優しいのは、俺の持って生まれた良いところだ。別に誰に評価されなくたって、神様はきっと見ていらっしゃるに違いない。
俺が幸せになるのは、きっとあの世にいってからだな。それまではせいぜい、ささやかな幸せを見つけて、生きていくとしよう…」

さらに年月がたち、彼は年老いていきました。

そして、いよいよその時が来たのです。
彼は孤独に、寂しそうな表情をたたえて天に召されていきました。

果たして、彼はあの世で幸せになったのでしょうか。



(つづく)

written by 108

One Ping to “優しい人ほど損をする?(その1)”

  1. Yahoouj Says:

    Really good work about this website was done. Keep trying more – thanks!


4 Responses to “優しい人ほど損をする?(その1)”

  1. 1. key Says:

    最後はー?
    じらさないで・・!

  2. 2. 山田君 Says:

    あいたたたた・・w
    ありがとうございます♪

  3. 3. ななし Says:

    この主人公はもしかして、108さん自身?(笑)
    続きを楽しみにしています。

  4. 4. suzuki13 Says:

    他人と思えない(苦笑)

    早く続きが読みたいです。

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